はじめに
「貯金をしているのに、なぜか安心できない」
「投資を始めたのに、もっとお金が必要な気がする」
看護師として働いていると、収入が大きく変わらなくても、夜勤の負担、体調、働き続けられるかどうか、老後の生活など、さまざまな不安を抱えることがあります。
今回紹介するのは、櫻井かすみさんの『不安通貨』です。本書は、貯金や投資をしても消えない「お金の不安」を、幸福学・心理学・行動経済学の視点から考える一冊です。
本書が教えてくれるのは、資産額を増やすことだけが安心への道ではないということ。大切なのは、収入の多さだけではなく、自分が何に不安を感じ、どのようにお金と向き合っているかを知ることです。
お金が増えても、不安が消えない理由
お金の不安は、単純に「お金が足りない」から生まれるとは限りません。
もちろん、生活に必要なお金が不足していれば、不安が強くなるのは自然なことです。しかし、必要な貯金ができても、投資を始めても、「もっと備えなければ」「もし病気になったら」「この先、働けなくなったら」と不安が続くことがあります。
その背景には、将来を完全には予測できないこと、他人と比べてしまうこと、損をしたくないという気持ち、そして「いくらあれば安心できるのか」が決まっていないことがあります。
つまり、口座残高だけを増やしても、不安の正体が見えないままなら、安心を実感しにくいのです。
看護師の不安は「お金」だけではない
看護師のお金の不安を考えるとき、単純に年収だけを見ることはできません。
夜勤手当がある一方で、体力的な負担があります。子育てや介護との両立、転職、休職、時短勤務など、ライフステージによって働き方が変わる可能性もあります。
だからこそ、「今いくら稼いでいるか」だけでなく、次のような問いが大切になります。
- 何歳まで、どのような働き方を続けたいか
- 体調を崩したとき、何か月分の生活費があれば落ち着けるか
- 夜勤を減らしたとき、家計はどう変わるか
- お金を使ってでも守りたい時間や健康は何か
- 将来のために、今の生活をどこまで我慢したいか
「不安をゼロにする」よりも、「不安があっても判断できる状態」をつくることが現実的な目標になります。
収入よりも大切な、お金との向き合い方
本書を読んで考えさせられるのは、収入が増えれば自動的に幸福になるわけではないということです。
収入が増えても生活水準が上がり続ければ、また「足りない」と感じることがあります。反対に、収入が限られていても、自分にとって必要なものと不要なものを整理し、納得してお金を使えている人は、安心感を持ちやすくなります。
ここで大切なのは、節約を我慢大会にしないことです。看護師にとって、睡眠、食事、通勤の負担を減らすこと、学び直し、家族との時間は、単なる「ぜいたく」ではありません。長く健康に働くための土台です。
お金は、貯めるためだけにあるのではなく、自分の健康、時間、選択肢を守るためにも使えます。
幸福学・心理学・行動経済学から考える「安心」
本書の魅力は、お金の話を数字だけで終わらせず、人の心の動きと結びつけている点です。
近年の研究でも、経済的不安は幸福感や生活満足度と関係し、金融行動そのものがストレスや意思決定の疲れにつながる可能性が示されています。お金の管理を考えるときは、家計の数字だけでなく、「自分でコントロールできている感覚」や「将来の選択肢がある感覚」も重要です。
そのため、看護師のお金の管理では、完璧な家計簿や複雑な投資計画よりも、続けられる小さな仕組みが役立ちます。
たとえば、次のような方法です。
- 毎月の固定費と、最低限必要な生活費を把握する
- 給料日に少額を先取りして貯金する
- 投資は「なくなったら困るお金」と分ける
- 月に一度だけ、資産と支出を確認する
- SNSや周囲の資産額と自分を比べない
不安が強いときほど、投資情報を探し続けたり、何度も残高を確認したりしがちです。しかし、それがさらに不安を大きくすることもあります。自分の確認頻度を決めることも、お金との距離を整える方法です。
看護師が今日からできる「不安の棚卸し」
紙やスマートフォンに、次の3つを書き出してみましょう。
1.いちばん心配なこと
「老後資金」「病気や休職」「子どもの教育費」「親の介護」など、漠然とした不安を具体的な言葉にします。
2.今できること
生活費の把握、勤務先の制度確認、傷病手当金や高額療養費など公的制度の確認、少額の貯金など、行動を一つに絞ります。
3.今は考えなくてよいこと
まだ情報がない将来の相場、他人の投資成績、何十年先のすべての支出など、今すぐ決められないものは一度手放します。
不安をなくすために、すべてを一気に解決する必要はありません。不安を「行動できる大きさ」に分けるだけでも、気持ちは少し整理されます。
『不安通貨』は、安心のためにお金を使う本
『不安通貨』は、「もっと貯めなければ」と自分を追い込むための本ではありません。お金の不安を感じる自分を責めず、何に安心を感じ、何を大切にしたいのかを見つめ直すための本です。
看護師は、人の命や健康を支える仕事です。だからこそ、自分の健康や生活を後回しにし続ける必要はありません。
お金を貯めることも、投資をすることも大切です。でも、それらは不安を消すための目的ではなく、自分らしく働き、生きるための手段です。
「いくらあれば不安がなくなるか」だけではなく、「どんな状態なら、今より少し安心して暮らせるか」を考えてみる。
その視点を持つことが、看護師がこの先を不安なく生きていくための、現実的な一歩になるのではないでしょうか。
まとめ
櫻井かすみさんの『不安通貨』は、貯金や投資の方法だけではなく、お金と幸福の関係を考えさせてくれる一冊です。
お金の不安があるときに必要なのは、いつも「もっと稼ぐ」「もっと増やす」こととは限りません。自分の不安の正体を知り、健康、時間、選択肢を守るためにお金を使うことも、立派なお金との向き合い方です。
まずは、今月の生活費と、心配していることを一つだけ書き出してみる。そこから、自分にとっての安心を少しずつ形にしていきましょう。
※本記事は書籍の内容を参考にした読書紹介です。制度や金融商品を利用する際は、最新の公的情報や専門家の助言をご確認ください。

